被爆六十周年記念事業 コンセンサス会議
歴史的証言に基づくヒロシマ平和コンセンサスの試み

主催: ワールド・ピース・ヒロシマ
共催: 財団法人広島平和文化センター
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ヒロシマ平和コンセンサス『鍵となる質問』に対する回答要旨
会議録(カセットテープ)を事務局で保管しています。


◎ 齊藤忠臣(広島平和文化センター理事長)

  広島は被爆体験を原点として核兵器廃絶と世界の恒久平和の実現を願っているが、その根底には、和解のメッセージが宿っていると理解している。その象徴として原爆死没者慰霊碑の碑文「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」がある。この碑文の前に立った方々が、「私は」「私たちは」「我々は」「人類は」というふうに主語を補い、人類が人類の上に落とした核兵器、その罪深い行為を三度起こすことはやめようではないか、そういう決意がそこに込められていると思っている。

  ヒロシマはさまざまな努力を60年間積み重ねて来た。そうした先人達の努力が、長崎以降三度目の原子爆弾の投下を防いできたように思う。そう考えると平和の象徴としての役割を果たしてきたのではないかと理解している。また、戦後まもなくの平和記念都市建設法による国からの支援、国内外からのさまざまな暖かい支援があってこそ、この目覚しい復興を遂げることができたと思う。そう考えると、広島の街には、平和を願う国内外の多くの方々の努力とか善意、希望、平和への願いが、いっぱい詰まっているのではないか。すなわちこの街全体が平和を象徴していると言えるのではないかと思う。

  広島市は平和市長会議と共に「核兵器廃絶のための緊急行動」、2020ビジョンを展開している。この緊急行動では、全ての核兵器の実戦配備を即時解除すること、2010年のNPT再検討会議までに核兵器禁止条約を成立させることを目標に、平和市長会議の加盟都市、NGOさらには、核軍縮に熱心な政府などと手を結び、2020年までの核兵器廃絶に向けた努力を重ねている。当面の目標は、今年市長が提案した国連総会の第一委員会に「核兵器のない世界の実現と維持とを検討する特別委員会」を設置することである。このため、平和市長会議の事務局では、主要国の政府首脳に書簡を郵送し、そうした委員会の設置に向けた行動を要請するとともに、平和市長会議の加盟都市にも自国政府に対する働きかけをお願いしている。また、当然ながら、今年の2月に市長が外務省を訪問して谷川外務副大臣に「核の傘」に頼らない安全保障の構築と緊急行動への賛同などを要請している。

  広島市民との連携については、今年4月、中区のアリスガーデンで被爆60周年ヒロシマ平和テント村を平和団体と一緒に共催した。1月には、木の小さなブロックで壁を作る「国際法を守る壁」という試み(平和メッセージをその小さな木片に記入し、組み合わせて壁を作っていく)を平和記念資料館で実施した。多くの皆さんから約2週間で1000個のメッセージを記入していただき、これをニューヨークに輸送して国連の前に展示した。4月7日には、NPT再検討会議に向けてNGOの参加団体連絡調整会議を広島平和文化センターで開催した。市民の皆さんとの連携、更には分厚い核兵器廃絶の大きなウェーブを創っていくという意味でも、これからこういう機会をとらえて、是非皆さんと共にやって行きたいと思う。

  広島平和文化センターにHPV(ヒロシマ・ピース・ボランテイア) が生まれたのは1998年で、今年で7年目になるが、とても充実した陣容になっている。また平和記念資料館の来館者の方々へのサポートや質問に対する真摯な回答は、資料館の入館者にとっては心強く、また、サポーターとしてよく機能していただいていると思っている。これからはスキルアップとともに、自立的活動に向けて取り組んでいただけるように、皆さんとよく話し合い、広島市としてもサポートしていきたい。

  平和記念資料館は被爆の実相を展示しており、事実を事実として提示し続けることの大切さを発信している施設である。平和記念資料館に来られる方々が、どういう感想を残しておられるのかを見れば一目瞭然である。一番わかりやすい言葉だと思うのは、スウェーデンの故パルメ首相が残された言葉で「欧米では核戦争は抽象的概念だが、ここに来てそれが残虐な事実であることを知った」というもの。つまり、まだまだ外国では、核戦争というのは抽象的な概念として足踏みを続けているが、広島に来て「かなり具体的で残虐な事実であることをはじめて知った」ということである。こうしたことからすると、私たちは事実を事実として提示し続け、原子爆弾の投下がいかに残虐な行為であったかということを、また事実としてあったのだということを示し続けることが大事であろうと思う。それが、二度とこういうことをさせてはならないということに、繋がっていくのではないかと思う。




◎ 森瀧春子(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会共同代表)

  「限界」というのは沢山ある。例えば、NPT再検討会議がああいう形で終わったことだから、やはり現実にぶつかる問題は、市民の側だけの問題ではなく相手があり、力を持って核兵器を必要とする国々が厳然とある。そこへ市民、NGOの力を集めて5月に行動したわけだが、このような結果が出て常に「限界」というのは、立ちはだかっていると思う。国内的にも国際的にも同じ目的を持ってそれぞれが違う立場で違う方法で、しかし、目的は核廃絶という意味では同じ目的で働き、それをお互いに感じたときに、ここにもこういう人がいたのだとか、若い人などから大きな反応が出たりした時、「連帯した喜び」を感じる。連帯が一番の基本で人間と人間の繋がりによって力ができていくというのは昔から変わらないと思う。

  具体的核廃絶への道というのは、5月(NPT再検討会議)の段階では、アボリション2000とか、平和市長会議が、また広島市が中心となって提起した2020年ビジョンを歓迎した事が、第1回のコンセンサス会議で話した道筋である。国連の中でもさまざまなワークショップが開催されたが、NGOが、核保有国が、立ちはだかっている。それならば、市民の側から直接の代表者である自治体とNGOが力をあわせて何らかのロビー活動なり、運営会議に参加する各国の代表にどう効果的に提起していくか、その場で最大限皆が知恵を絞っていく、その時点その時点で工夫を凝らしてそれを効果的にしていく。そして運動は、お互いに認め合っていかないと力になっていかない。次の段階としては、広島だったら平和市長会議が世界をリードする運動をしているが、それが市民とうまく結びついているかどうかという点ではやはり市民側にかかっているという気がしてきている。行政の側からは、ある意味でとても難しい。私たち市民が介在して一緒の力にしていく事こそが、鍵となるのではないか。世界には非核宣言都市が2000くらいあるが、その都市の住民と一緒に市民を引き出していき、日本が核保有の意図があるというところに力を入れて粘り強い運動をしていかなければと思う。

  私自身は、憲法改正の動きに対して危機感を持っているが、行動として日本も憲法九条を中心とした憲法が、戦後60年どういう役割を果たしてきたか?をもう一度検証してみる必要がある。実際には、日本国憲法がないがしろにされる政治を許してきているが、その最たるものがイラク派兵、小泉首相の靖国参拝などで、特にアジアの中で日本は孤立化している。アジアの国々の反応、抗議行動が展開される中、北海道で日米の共同作戦訓練をやり、アジアの国々の抗議行動などに対するナショナリズムが起こり、次第に憲法改正への単純な理解がまかり通っていく恐ろしさを感じている。今の状況をどのように見極めていくか。この現象が何を意味するかという事を肝に銘じ、判断し、関わっていこうとする者は、流されるのではなく自分で判断する。その奥にあるものを見抜いていく力をつける必要がある。

  核抑止論にしても、現実、今の世界をリード、支配しているのは「力の論理」だと思う。力の論理の頂点、核運命は、日本の歴史の中で科学的到達点。人間が開発した最先端の技術が人類を滅ぼしていきかねない。そういう意味では力の論理の究極に今も核文明がある・・・ということからすると、非常に抽象的になるが、これはヒロシマの心といわれる私たちが体験から文明の方向を変えていかなければならないと思う。力の文明を愛の文明に変えていかなければならない。そこに真理があると思う。そういう信念を持たないとなかなか現実が厳しい。自分を支えきれない。それを実現していく時に人間が開発した核開発の出発点から今の核実験、原発、核のごみから劣化ウラン弾を作ったり、核が世界を支配している事がキーワードだと思う。人間の生み出したものが、自然破壊、人類の滅亡に至らしめうる。そういった力を人間がコントロールできなくなってしまう現実、そういうのを変えていくのはやはり人間しかない。人間が開発したものなのだから人間にはできるはずだ。



◎ 和田恭太郎(被爆者、世界連邦運動協会広島支部理事、作家

  現在、民主主義は理想の形と思われ、絶対的であると思われているが、所詮、民主主義は多数決で決める「力の論理」に過ぎないということを知るべきだ。

  この民主主義の「力の論理」を「愛の文化のかたち」に持っていかなければならない。
  その際、その概念がはっきりと明確化しないと総(すべ)ては進まない。
  その概念をはっきりさせた答えとして “正しい魂の向上”、魂をより大きく、より深く、何よりも清く正しくしてゆき、そうした正しい魂に自分を近づけ向上をはかることが、そして、そうした魂を増やす事が大切である。

  正しい本当の平和は人が創るものであり、人の存在価値は何か、「人は何の為に生まれてきたのか」「自分自身はどこから来てどこに行くのか」 などについて、はっきりした答えをつかまなければ生きている存在価値はないのではないか。この際、それらの答えとして、結局“魂の向上”というところに帰着する。その場合、私は日本において、また、世界史に投じて通じる人物は、消去法から唯一、毛利元就であると思っている。理由としては、彼は、他の武将のように暗殺される事もなく(暗殺されるのは抜け作)、人を裏切らず、また裏切られず、人殺しをせず(人を根こそぎ抹殺せず、ただ自らは一人しか殺していない)、陰口もたたかれようのない毛利元就はヒロシマの心に繋がると思う。

  ヒロシマは、核廃絶という事でやってきたが、核廃絶は平和構築の一里塚であり、決め手にはならず、で、まず戦争自体をなくす事が大事である。

  なぜなくす事が必要であるかというと、核兵器という極悪兵器、細菌兵器、化学兵器が存在しているからだ。

  アングロサクソン(ヨーロッパ)が尊(たっと)んでいるのは民主主義であって、平和の原理ではない。ゆえに民主主義の論理で振り回されず、本当の平和の原理をヒロシマから発信する事がもっとも大切である。

  ヒロシマに、ウォーターフロントでも広島大学跡地でもいいから、国連ビル以上の “地球政府ビル” を立ち上げる事こそがヒロシマの使命ではないか。
  その際、皆で一緒に納得でき、成し遂げられるという <存在価値> を創り上げていくことが大事だ。その手本として、鏡として毛利元就がいる。



◎ 中里博泰(国際地球環境大学教授)

  リンゴ(人)が腐っていっている。リンゴ箱(社会構造制度)のシステムを根本的に変革する必要がある。そこで、現在の資本主義に替わり「共生主義」を提案する。共生主義とは、法と秩序の遵守、家事と責任の分担、個々の自由、私欲の共用と情報開示により公平な社会を作る平和主義であり拝命主義である。何時でも、誰でも、公平に食事や、衣料品、生活必需品、などが提供される公共共用施設と適度な調度品や電化製品を装備する住宅を共用するシステム。物質的にも、精神的にも人の命を中心重視したシステム。「自立維持管理型社会構造」、「自給圏経済」、「お金や税金を必要としない生活空間」は自我を形成しない社会構造であり、共生主義社会である。

  共生主義に基づいた理想社会を築くためには、リンゴ(人)とリンゴ箱(社会システム)を創った「誰か(サムシンググレート)」と人との関係を解くこと、そのためには「自分は誰か」を明らかにすることが必要。「自分が誰か?」の自分とは、宇宙創造の起源となる融合意識で起源意識が人体(脳内)に入り込んだもの―大なるもの(宇宙)の中に小(人)があるように、小なるもの(人)の中全てに大なる要素(宇宙)が含まれるという、量子力学の局所存在性原理。私たち一人ひとりは、全体一体で機能している。「起源意識の一部分」が「自分」。それゆえ私たちは、全体でひとつになれる社会を作り「起源意識」として生きなくてはならない。「起源意識」は、表面は「自己」、裏面は「我」の表裏一体。「自己」と「我己」が融合する「自我(エゴ)」。「自我(エゴ)」解決には「我己(損得やお金などの利害を中心に働く)の排除が必要。「我己」を排除し、「共用」を基盤とした(構造−システム)社会にするためには 「共生主義社会」を作るためのモデル的コミュニティ(Uni−Earth City=理想社会)のネットワーク創りが必要。宇宙(人としての連帯=起源意識全体)連邦。どの宗教にとっても理想が完成された社会が「Universe state (宇宙国)」だ・・・(例)極楽浄土、理天界、究極のイスラムの国。

“宇宙国建国”に関する補足資料
  「世界平和の創り方」講座
     ユニアース プロジェクト


◎ 平和宣言(秋葉忠利・広島市長)

※回答は広島市平和推進担当課長・手島信行氏によりなされた。

  被爆60周年の86日、30万を越える原爆犠牲者の御霊と生き残った私たちが幽明の界を越え、あの日を振り返る慟哭の刻を迎えました。それは、核兵器廃絶と世界平和実現のため、ひたすら努力し続けた被爆者の志を受け継ぎ、私たち自身が果たすべき責任に目覚め、行動に移す決意をする、継承と目覚め、決意の刻でもあります。この決意は、全ての戦争犠牲者や世界各地で今この刻を共にしている多くの人々の思いと重なり、地球を包むハーモニーとなりつつあります。

  その主旋律は、「こんな思いを、他の誰にもさせてはならない」という被爆者の声であり、宗教や法律が揃って説く「汝殺すなかれ」です。未来世代への責務として、私たちはこの真理を、なかんずく「子どもを殺すなかれ」を、国家や宗教を超える人類最優先の公理として確立する必要があります。9年前の国際司法裁判所の勧告的意見はそのための大切な一歩です。また主権国家の意思として、この真理を永久に採用した日本国憲法は、21世紀の世界を導く道標です。

  しかし、今年の5月に開かれた核不拡散条約再検討会議で明らかになったのは、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、北朝鮮等の核保有国並びに核保有願望国が、世界の大多数の市民や国の声を無視し、人類を滅亡に導く危機に陥れているという事実です。

  これらの国々は「力は正義」を前提に、核兵器の保有を入会証とする「核クラブ」を結成し、マスコミを通して「核兵器が貴方を守る」という偽りの呪いを繰り返してきました。その結果、反論する手段を持たない多くの世界市民は「自分には何もできない」と信じさせられています。また、国連では、自らの我儘を通せる拒否権に恃んで、世界の大多数の声を封じ込めています。

  この現実を変えるため、加盟都市が1080に増えた平和市長会議は現在、広島市で第6回総会を開き、一昨年採択した「核兵器廃絶のための緊急行動」を改訂しています。目標は、全米市長会議や欧州議会、核戦争防止国際医師の会等々、世界に広がる様々な組織やNGOそして多くの市民との協働の輪を広げるための、そしてまた、世界の市民が「地球の未来はあたかも自分一人の肩に懸かっているかのような」危機感を持って自らの責任に目覚め、新たな決意で核廃絶を目指して行動するための、具体的指針を作ることです。

  まず私たちは、国連に多数意見を届けるため、10月に開かれる国連総会の第一委員会が、核兵器のない世界の実現と維持とを検討する特別委員会を設置するよう提案します。それは、ジュネーブでの軍縮会議、ニューヨークにおける核不拡散条約再検討会議のどちらも不毛に終わった理由が、どの国も拒否権を行使できる「全員一致方式」だったからです。
さらに国連総会がこの特別委員会の勧告に従い、2020年までに核兵器の廃絶を実現するための具体的ステップを2010年までに策定するよう、期待します。

  同時に私たちは、今日から来年の89日までの369日を「継承と目覚め、決意の年」と位置付け、世界の多くの国、NGOや大多数の市民と共に、世界中の多くの都市で核兵器廃絶に向けた多様なキャンペーンを展開します。

  日本政府は、こうした世界の都市の声を尊重し、第一委員会や総会の場で、多数決による核兵器廃絶実現のために力を尽くすべきです。重ねて日本政府には、海外や黒い雨地域も含め高齢化した被爆者の実態に即した温かい援護策の充実を求めます。

  被爆60周年の今日、「過ちは繰返さない」と誓った私たちの責任を謙虚に再確認し、全ての原爆犠牲者の御霊に哀悼の誠を捧げます。

  「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」



平成172005)年1022


『ヒロシマの心 これからのヒロシマ』

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